「……帰るか。」
「うん。」
渡の声に、
羅衣は…顔を上げた。
…と、その瞬間に……
彼女の額に……
温かいものが触れた。
「……え……?」
暗闇に慣れた瞳に。
真っ先に映し出されたのは……
羅衣を真っ直ぐに見下ろす、渡の……顔。
「…………。帰る。」
彼女は渡をどんっと突き離して……
逃げるようにして、ばたばたと……
走り去って行った。
残された渡は……
ぼんやりと…自分の掌を見つめる。
まだ残っている…
彼女の温もり。
それをぐっと握りしめて。
彼女が消えた廊下の先を……
また、ぼんやりと……
見つめていた。


