渡が廊下へと出ると。
羅衣はぷく~っと膨れっ面をして…待っていた。
つかつかと渡へと歩み寄って。
「学習能力ないのか、アンタは!」
すごい剣幕で…怒鳴る。
「………。足。治ってる。」
「……は?」
「用事、それだけ。」
「……え。それだけ?」
「うん。他に来る理由ある?」
「………。…………ない。」
「……だよな。……じゃ、お大事に。」
「…………。」
羅衣の怒りも……空回り。
「………。……あの。」
思わず……
声を掛けてしまう。
「なに?」
渡が…振り返る。
「もっとこう…話すことってあるんじゃなくて?」
変なことを口走った、と……
彼女は慌てて口を塞ぐ。
「……いや、ごめん。何でもない。」
「………。アンタの方が、昨日から何か話したそうな顔してる。」
「ぇえ!」
「……で…?何……?」
「……………。」
図星であった。
別に渡とは…
友達ではない。
もちろん、恋人でもない。
憎まれ口をたたき合うから、ライバルかと思いきや……
そういう訳じゃない。
何にも分類されない……
不思議な関係。
そんな相手に、お願いをこうとは……
図々しいとさえ思えた。
だけど……、
彼女を見つめる瞳が、余りにも優しいから。
彼女は……惑わされる。
彼はまた…、彼女の言葉を引き出すべき行動を知っているというのだろうか。
敵わない気がさえ……していた。


