「「ガンバで~す!」」
そんなお決まりの声援を受けながら。
羅衣は…平均台の上へと上がった。
「……ふぅ……っ。」
滑り出しから……、3連続のジャンプ。
それから…集中を研ぎ澄まして。
……後方転回。
の、はずが……
着地を堪え切れず、マットの上へと…落下してしまう。
「…どうした?不調だな。」
体操部の顧問、後藤が…マイペースに近づいてくる。
「…ごっつぁん。どうしたら着地止めるられるんだろう?」
「………。……根性だな。」
「……ええっ。」
弱小体操部に秀でたコーチなどはおらず、後藤は…無理矢理顧問にさせられた…、若手の…体育教師。
体操経験は全くのないが、本を読みあさって知識のみは多少あるものの。
この手の質問には……
想像できる範疇で答えるしかない。
「ごっつぁん、今度止まったらアイスを下さい。」
「……よし、がんばれッ一ノ瀬…!!」
実に………
ゆる~い部活動なのであった。
羅衣は低い練習用の平均台で……
何度も、繰り返し練習を重ねる。
「オラァ、渡ッ!!ゾーンしっかり守れやぁ~!!」
体育館に…峰岸の声が響く。
羅衣はつい…、反対側のコートへと目線を移す。
渡はコクリと頷いて。
また……ディフェンスへと入る。
以前のように、笑顔なんてなくて……
汗を拭いながら、歯を食いしばるようにして…相手へと張り付く。
「………。あいつも叱られることあるんだ…。」
ぼんやりと……
その、光景を…眺める。
彼女は再び平均台へ乗ると。
集中を取り戻して…
後方へと跳ぼうと、手を振り上げた。
途端に、
「渡ぃっっ!!」
再び上がった罵声に。
集中が…途切れてしまう。
平均台の端へと片足が捩じ曲がった状態での…
着地。
バランスを崩して…
そのまま、マットへと倒れ込む。
「…一ノ瀬っ、大丈夫か?」
後藤がすぐに駆け付けて、羅衣の踝の辺りを…確認する。
「……いてて…。大丈夫です。」


