「悠生(ユウキ)、そろそろ帰るぞ。」
「は~い、あ、蒼兄。俺、健んちに寄ってくから…先帰ってていーよ!」
渡と、どうやらその弟らしい少年は、バスケをやめると…、その場で別れを告げた。
残された渡は、転がったバスケットボールを拾い上げ…帰ろうとするけれど。
「…蒼兄………!」
さっき先にいなくなったはずの悠生が…戻ってきた。
「……?どーした?」
「あのさ…、あそこのベンチで…人が転がってるんだ。ホームレスかなあ……、全然動かないんだけど……。」
「……は?」
渡は、悠生が指差す方向を……まじまじと見つめる。
確かに…人が寝転がっているようには…見えるけど……?
「……なんか……、怖いし!じゃあ兄ちゃん、後は頼んだぞ~!」
「……エ。…マジか。」
可愛いい弟の頼みとあっては仕方がないのか……?
彼は、恐る恐るベンチへと近づいて……。
その、寝転がる物体を…
確認する。
……が、
顔は開かれた本によって隠されていて……、
男女の判断もつかない。
「………ん?」
渡は、あることに気づき…、その本の表紙を見つめた。
「……まさか………。」
そう……、
その、まさかである。
彼も見知っている…本の題名。
それに……、さっき本屋でこんな風貌をした者と…会っていた。
残念なことに、胸の膨らみでは女性だとは判断できなかったが……。
よくよく見ると、
筋肉質なふくらはぎが…カーゴパンツから見え隠れしている。
「………。色気…ゼロだな。」
勇ましい鼾さえ聞こえてくる。
しばらく迷った挙げ句……、
渡は羅衣の顔の前でしゃがみ込み……
「一ノ瀬。」
小さく…囁き掛けた。
「ん………、う~ん。」
彼女は唸りながら…寝返りを打って、渡に背を向ける。
その拍子に……、
本がベンチの上へと滑り落ち、隠していたはずの彼女の横顔が…現わになった。
「………。どうやったらそんなに爆睡できんだ?」
本を手に取って……。
羅衣の横顔を、見つめる。


