「………犯人でなきゃ、題名を見ただけでは小説の内容までは…わからないのかもな。」
突然。
頭上から…声が降り注ぐ。
「………ぎゃっ…!」
意表つかれた羅衣は、驚きの余り……
持っていた小説を、ポトリと落とす。
「………渡……!」
「上から見下ろすと、例え壁に背を向けてても…見えるもんだな。」
「……?!」
渡は本を拾いあげて、
パラパラと…ページをめくる。
それから、あるページで手を止めると…。
「……お。」
まじまじとそれを見つめて、にやりと笑う。
「……答え…知りたい?」
「………!ま、待って。」
「俺、なかなかいい勘してるかも。トーマスは…」
「いやーっ!まだ言わないで!!」
「………。じゃあ何でまたストーカーしてたのか言えよ。」
「…はあ?!そんなのしてないし!」
「トーマスは小説がミステリーだと……」
「ああっ…楽しみが減っちゃう…!!」
「…で…?俺に何か用?」
「………用って言うか…。」
羅衣は目を泳がせて……
口を尖らせる。
それから、
ポケットの中から何かを取り出すと……。
「……ん!!」
渡の前へと、手を伸ばす。
「…何…?」
「お釣り。」
「……ハ?」
「この前のジュース代。あの…、別にそのまま猫ババしようと思ってたんじゃないから!返すタイミングが……。」
「……………。」
渡はそれを受け取って。再度…羅衣を見る。
「コレを根に持ってたんでしょう?ちゃんと返したよ。だから、もう近づかないでください!」
「…………。」
「いらぬ噂立てられるし、アンタも迷惑でしょう?」
「噂?」
「呑気なもんね、アンタもしや…知らないの?」
「……?何が…?」
「アンタと私、何でか付き合ってることになってるんだけど。」
「そうなんだ?」
「……って…、そこ気にしましょうか、お兄さん?」
「………。それより、早く小説の答え…」
「……って、スルーかいっ!」
ポーカーフェイスを全く崩すことのない渡に。
羅衣は……ついイラっとする。


