「………。来ないな。」



時計をチラチラと気にしながら、



以前の二の舞にはならぬようにと……



今度はしっかりと立って。







「………………。」






彼女の手元には、相変わらず……


あの小説。








「……『さて、先生はなぜトーマスが犯人だと思ったのでしょう』?」



彼女は首を傾げながら…、もう一度、読み終えた章を…読み返す。














男子僚で起きた…殺人事件。



被害者であるマイケルは…

自室の椅子に座り、机の上に置かれた手の中には閉じた本を握りしめたまま…、息を引き取っていた。



部屋には、両角にそれぞれ、勉強用の机と椅子…。二段のベッド。それに…小さなテレビが設置してあるくらいで…、とても狭い空間であった。





死因は…青酸カリによる即死。




壁に背を向けるように座った彼の足元には、瓶の蓋が開いたまま床に転がり落ちていて。


中の液体が……



カーペットへとしみ込んでいた。





第1発見者は同じ僚に住むスティーブン。




食事の時間になっても姿を現さない彼を呼びに来て…、彼の遺体を発見した。




第一発見のスティーブンは…こう証言している。


「彼は今朝古本屋に出掛けて…、帰って来てからはこの部屋に入ったまま、一度も出て来なかった。」



先生は、僚に住む全ての者へと事情聴取を行っていた。





同室にて生活するトーマスは、以下のように証言している。


「僕も出掛けていたんです。スティーブンから電話が来て…驚きました。まさか彼が…死んでしまうなんて!」



「彼が自殺をするような理由は…あったのかね?」



「……確かに…、思い悩んでいました。入れこんでいた彼女とは別れたばかりで……。最近なんて閉じこもって本ばかり読んでいましたよ。じめじめとばかりして…ね。」




「…だから本を持ったまま…。」



「本ですか?…ああ、ミステリー小説を読んでいましたね。それでしょうか?」



「………。そうなんだよ。いや、私はね、これは殺人事件なんじゃないかと思うのだよ。」



「…何故ですか?」



「……。なぜかって?それは署でじっくりと話を聞かせてもらおうじゃないか。」







Q.さて、先生はなぜトーマスが犯人だと思ったのでしょう?