一ノ瀬 羅衣は、そうまくし立てて。
廊下を歩く男の…行き先を塞ぐ。
踵を履き潰した内履き。
更に…こともあろうに、見事なまでに筋肉質なふくらはぎを現わにし、
それを壁に突っ張ねて。
「…………。」
男……、渡 蒼生は何も言わぬまま、ハードルのごとく跨ごうとしているが…、
それに敏感に反応した羅衣の方が…更に一枚上手であった。
何とも軽やかに、ひょいっと足を上げてみせる。
ところが……。
…なんてことでしょう…!
「……~ッ!!」
ソレは見事なまでに渡の股間に直撃し……
痛みを堪え言葉を失った彼は、その場にしばし…うずくまってしまった。
「あ……。ええー…と、その、わ、悪気はなかったんだけど…ネ。」
さすがにこれには焦ったのか、羅衣は長いウェーブのかかった髪を片側だけ耳に掛けて……
渡の顔を覗きこんだ。
彼は…眉間には数本のシワを浮かべ、
大きく涼しげな瞳をいくらか歪ませて…羅衣の姿を映し出している。
――なんて…綺麗な顔だろう。
初めて間近で見たその顔に、うっかり見とれてしまう羅衣であったが。
「……変態。」
彼がひと言……。
そう、たったのひと言だけ放った言葉によって、その幻想は…打ち砕かれる。
呆気に取られる彼女をよそに、渡は立ち上がると……
あとは見向きなどもせず、何事もなかったかのように…
スタスタと歩き去ってしまった。


