「しまった…。金欠だった。……ああ…、たみちゃんごめん。」



財布を閉じて、ぶつくさつぶやく羅衣を、渡は横目で見つめる。




「……買わないの?」


渡は意地悪く…聞いてみた。






「…………。」




返事は、ない。




「……ああ…、パシられてたんだ?大変だな。」



「……違うわよ。人のこと言えんの?アンタ達こそ授業中でしょ。」



「そっちと同じサボり。」




「ちょっ…、一緒にしないで。」



「………。」



「保健室にいるトモダチに買っていこうと思っただけだから。」




羅衣はしょんぼりしたまま、力なくそう答えると…、

くるりと…踵を返す。











「………。なあ。」







不意に……、



背後から呼び止められる。






声の主は……



渡 蒼生。





「……何。」





羅衣は苛立った様子で振り返ると……。





「…………!」




彼は千円札をひらつかせ、





「……貸してやろうか?」



にこりともせぬまま、問いかける。






「お前金あるんじゃんよ!」…と、隣りにいる友人が突っ込みを入れる。





途端に渡はニヤリと笑って。




「要領よくいかないと。」




人差し指で、自分の頭を指差して……




それから、



その矛先を……羅衣へと向けた。










「………。…いらない。」



「何で?友達に買っててやるんだろ?」




「……そうだけど…。アンタに借りなんて作りたくない。」





「……じゃあ……」





渡はそこまで言って。



スタスタと……羅衣へと歩み寄る。





「………?!」


警戒心丸出しの彼女は、一歩後ろへと後退するけれど。



その腕を掴みとって…、




手に、千円札を握らせる。








「…アンタの友達にお詫び。」




「………ハ……?」











ふっとひとつ笑みを残して。




彼はまた友人達の輪に…



戻っていく。














ぽつんと一人とり残された羅衣は、それを握りしめたまま……




首を傾げていた。







「……『お詫び』…?」