「……まあ、そうなんだけどね。」
「………。じゃあ…、わざわざどーも。」
アッサリと引き返そうとする渡の腕を。
彼女は思わず…掴んだ。
「…ちょっ…、待ってよ!」
「…………!」
「だって、私のせいで風邪ひいたんでしょ?そりゃあ心配で…顔見たくなるじゃない!」
「…………。」
「なんで…、あんなことするの?訳わかんない!多分好きかもとかってテキトーこと言って。…散々惑わせといて…そのくせ無視して。冷たくするなら、つき通してよ。あんな風に、優しくされたら……、私…、どうしたらいいかわからない。」
目に……みるみると涙が溜まっていく。
「…………。いーから…、お前、もう帰れ。大体部活はどうした?」
「いつもいつも、アンタのせいで…散漫してる。だから…サボった。もう…限界。ハッキリして、いい加減…集中したい。」
「……。人のせいにすんな。訳わかんないとかって、俺の方が…わかんないし。何したいの、お前。」
渡は、大きく息を吐いて……。
低い声で、もう一度告げた。
「……帰れ。」
「………!帰らない!」
「じゃあ、俺が行くわ。」
「……待って!」
羅衣も…ひき下がらない。
背中を向けたままの渡の足が…
また、ピタリと止まった。
「………本当は、聞きたかったの。」
「…………。」
「ねえ、もう……上辺だけの言葉なんて信じない。渡の口から出た言葉だけを……私は信じたい。」
「……………。」
「本当の本当は、アンタ…何を考えてるの?」
「…………。」
「………っムカつく。」
「………は?」
「そうやってしれっとした顔して…人を惑わしてそんなに楽しい?」
「…………。」
「……ムカつきすぎて、気になりすぎて、止められない。いい加減……、こっち見て話聞け、バカぁ……!」
ついには……
堪えていた涙がボロボロと流れて。
いつも強気だった表情が…
一気に、崩れていく。
こんなつもりでは…なかった。
ただ、真っ向から気持ちを伝えたいと思っただけだった。
こんな醜態をさらすほど、羅衣は…かわいい女ではない。


