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♪♪♪♪~♪♪~………
羅衣が電話を掛けるその先では……、
どこからか、携帯が…着信を知らせるメロディーが……
響いていた。
~♪♪………
♪♪♪♪~♪♪~………
ピッ……
「………。はい。」
『あ…、もしもし?今…大丈夫?』
「…………。大丈夫だけど……、誰?」
『…あ、そっか。まだ登録してないんだ?一ノ瀬です。』
「…………。…一ノ瀬…?」
『ごめん、接骨院の看板見つけて曲がったんだけど……、次、どこ曲がるといい?多分ワタリん家に、だいぶ近いと思うけど……。』
「え……?」
『最初の十字路は、角が、ブロック塀に囲まれた家になってて…、次の十字路だと、左右に似たような家が向かい合って建ってる。その次だと、柿の木…かな?おっきい木が一本塀から飛び出してる家がある。』
「……柿の木の…所。」
『ん、わかった!そしたら次は?その通り沿いにある?』
「………。多分。」
『……?多分…?あはは、まあいっか。行ってみるよ。表札は出てる?』
「……………。」
電話先が……やけに、静かである。
『なんか…、周り静かだね。…部活は?』
「………。休んだ。」
『えっ…?何で?もしかして、この電話の為にじゃ…ないよね?』
「………。そっちこそ、声聞こえづらい。走ってんの?」
『…うん!』
羅衣の息づかいが…弾んで聞こえる。
「何で?」
『え、何でって……。あ……!犬いたっ!しかも…大きい!』
「…………!」
羅衣の声に重なって。太い鳴き声が…彼の耳に届いてきた。
「……そこで…、待ってて。」
『え?』
「いーから、そこで待ってろ!」
『え?なん…』
羅衣の声を遮るようにして。
電話が……切られる。
「………何…してんだよ、アイツ…。」
彼は、座っていた場所から立ち上がり……
徐に、窓のカーテンを開く。
見下ろした窓の外には……
羅衣の姿。
そして、
携帯をギュッと握り締めて……
部屋を飛び出して行ったのは。
渡蒼生で…あった。


