高梁が取り出したのは…、
「………。バナナ…、牛乳…?」
紙パックの、ジュース。
「一ノ瀬、これ好きだろ?……あげる。」
「………。なんで…?」
「…ちょうど俺も…一ノ瀬んとこ行こうとしてた。あわよくば、一緒に飲もうかと思って……。それが、このタイミングでそっちがアクション起こしちゃうんだもん。しかも…、違う男の為に。」
「…………。」
「一ノ瀬…、知ってた?前に、ワタリがアンタにそれ選んでただろ?」
「……うん。」
「あの時…、俺もその場にいたんだよ。」
「……えっ…。」
「……はは、やっぱ眼中になかったか……。因みに…、一ノ瀬がコレ好きだってワタリに教えたのも…俺。」
「…………!」
「あの時…、ワタリ、俺に聞いてきたんだよ。そりゃあさ、ずっと見てきた俺の方が詳しいワケで……。なのに、おいしい所持ってっちまうのは…アイツらしい。俺が先に…、知ってたのになあ……。」
「…………。」
「受けとってよ。餞別がわりに……。」
「でも…」
「いーから、受け取れ。もともと一ノ瀬にあげる為に買ったんだから……。」
「……うん…、ありがとう。」
ジュースに伸ばす羅衣の手の上から、
高梁の手が……重なる。
「……高梁くん……?」
両手で包むように、ギュッと握られて。
彼女はなすすべないまま……、
立ち尽くす。
「……一度しか言わないから…、よく聞いて。」
「………?なに……?」
「教えてあげる。ワタリん家は……、さっき俺が言った公園を通り過ぎて、それから2番目の信号を左折。その通りを真っ直ぐに行って、通り沿い右手に…コンビニが見えたら、右折。接骨院の看板を…、左に曲がって、そこからは住宅街の路地になるから……、目印はないけど、割とすぐ左に曲がって、でっかい犬飼ってるその隣りの家だから。」
「………。左…、右…?…左?ごめん、もう一回いいかな。」
「もう言わないよ。てか、わかんなくなったら携帯に電話ちょうだい?俺も…、景色見ながら、いつもなんとなくで着くから…細かく今言うのは難しい。」
「…わかった。」
「あ、そういえば…番号わかる?」
「………。…交換、してなかったかも。」


