そのまた次の日。
朝からそわそわとしていた羅衣は、決意も新たに……
昼休み、いよいよ椅子から立ち上がって…。教室を、後にした。
渡のクラスの前を…、行ったり来たり。
渡のタオルと、それから…もうひとつ、小さな包みも一緒に紙袋へと入れて…
それを持ったまま、なかなか踏ん切りがつかずにいた。
ここでもまた…、気づく。
渡のクラスを訪れるのは…
これが初めてであったと……。
「お礼を言って、渡すだけ…。お礼を言って、渡すだけ……。」
ぶつぶつ言いながら…うろついていると。
「…………。…不審者発見っ。」
背後から突然…、肩を叩かれる。
「…………!!」
「珍しいね、一ノ瀬。」
そのお相手、高梁は…。
羅衣の手元にチラリと目をやって。
それから……
いつものように、にこりと…笑って見せた。
「……俺に用……、では…なさそうだね。」
「…………。」
高梁がこのクラスであったことを……半ば忘れ掛けていた。
それだけ、他に気が回らない状態だったのか…?
彼女は返す言葉を見つけられずに、高梁から…視線を逸らす。
『渡すだけ、渡すだけ……』
トカトカなる心臓の音を落ち着かせながら、羅衣は…重い口を開く。
「あの……、ワタリ、今日…来てるかな?」
「…………。来てたけど……。」
「教室にいる?」
「……。いないよ。」
「……うん、そっか…。」
「いや…、つーか、さっき帰った。」
「………は…?」
「粘ってたみたいだけど……、強制送還された。」
「ええ?」
「アイツ、昨日も熱あって帰らせられたのに…、まーた同じことしてんの。アホ?」
「……熱………。」
羅衣の頭の中に、一昨日の雨のシーンが…よみがえる。
年中風邪知らずの彼女でさえ、少々…くしゃみが出ていた。
あの日、体を打ち付けていた雨は……案外、冷たかったことを思い出す。
「……高梁くん。渡の家って…学校から近いの?」
「……?いや、けっこー遠いかな。正門真っ直ぐに出て…ずっと北に向かった所のテニスコートとか入ってるデカイ公園わかる?」
「……うん。」


