風が強まって。
雨は……横殴り。
蒸し暑かったのが嘘のように……
肌に触れる空気が、ひやりと冷たくなっていた。
鞄を盾に、ひたすら前に進んでいた……その時。
ふわり……。
髪の毛に、何かが覆いかぶさると同時に……
パラパラと頭上で、雨を弾く音が聞こえた。
羅衣の顔の脇にのびる…大きな手。
顔を上げて……
その手を辿るように、ゆっくりと…視線を移す。
……が、
被せられたタオルでわしゃわしゃと髪を掻き乱され、
最後に…
ポン、と温もりを残して。
傘を羅衣に預けたまま……
その人物は、走り去っていく。
「…………。なんで…?」
顔を見なくても、
声を聞かなくても……
その背中を見せつけられたら。
誰であるのかは…わかる。
離れたと思ったら、近づいて……
また、突き放すかのようにして…
いなくなる。
けれど、いつもいつも…
残していくのだ。
確かな……温もりを。
少しだけ湿ったタオルは……
渡の匂いがした。


