一方の渡の元には……、
田之倉絵美が、訪れていた。
教室の壁に寄り掛かって。
しゃがみ込んでイヤホンを聞いている渡の片耳から、それを奪い取ると……。
絵美は自分の耳に…それをはめた。
「………。何……?」
彼女に顔を向けることなく……、
そして、表情ひとつ崩すことなく、
渡は…問い掛ける。
「…………。別に…。ただ、変わってないなあって思って。」
「……は?」
「教室の後ろで…いつもこうしてたよね。二人並んでさ。」
「……………。」
絵美は昔を懐かしむようにして……、音楽に聴き入る。
「蒼生のトナリ、まだ…ちゃんと空いてるんだ。」
「……………。」
「ハッパかけたから…てっきり一ノ瀬さんにアクションかけたかと思ってた…。なのに…あの人、高梁くんと一緒に呑気に笑ってんだもん。しかも、意地悪しようと思ったら、蒼生邪魔するし……。」
「……だから、なんだよ。」
「一ノ瀬さんに…言ってもいい?今ならまだ…、間に合うよ。やめて欲しいなら…止めてよ。」
渡りはイヤホンを外して。絵美の耳からも…それを奪い取った。
「一ノ瀬はもう……、全部知ってる。」
「え……?」
「俺もあいつも…、もうそういうのには…惑わされない。お前は、何をしたいの?俺への…仕返し?いつまで…お前はそのままなの?」
「…………。」
「そこんとこ、あいつは…すごいと思う。高梁のことも、俺のことも…別に怒ってはいない。自分なりに…消化してる。強いよなあ、ホント。」
「…………。」
「その上で…何かしようって言うなら。止めるよ?お前も一ノ瀬も傷つけたのは俺だけど…、繰り返すことで誰かが報われるとは思わない。ただ……、あいつを守る為なら。俺はきっとお前を…簡単に傷つける。」
「…………!」
「もう…、やめよう。俺は絵美の望みに…応えることはできない。」
「…………。」
「そろそろ、ただ純粋に…人を好きになりたい。」
「……そう。……なんだ…、自分ばっかり…変わってるんじゃん。誰にも靡かない…、そんな蒼生な好きだったのに。」
「……。お前くらいじゃん、いつまでも懲りずに…俺の隣りにいようとしたのは。」
「それ…誉めてんの?」


