逆に。羅衣にしてみたら……
話題にしたいくらいだった。
なぜならば、あの保健室の一件以来……。
渡が、羅衣に近づいてくることは……なくなったから。
元々…、羅衣から用あって声を掛けることはなかったのだと…。今更ながら気づく。
渡が彼女に構ってきた時にだけ、二人は…一緒にいれた。
『多分好き』と告白してきた渡に返事をした訳ではない。
高梁にだって…ハッキリとした返事を返していない。
なのに……、だ。
この状況にあるということは……、
やはり、おちょくっただけだったのだろうか。
それとも……
『困らせて…ごめん。』
あの言葉が…、彼の本心であったのか。
嘘なのか、本当なのか…、
今となっては、聞くにも聞けないことのようだった。
唯一会えるとすれば…、部活の時間だけ。
いくら羅衣が彼を見ようと…、目すら合わない。
例え高梁と一緒に彼とすれ違おうとも…茶々を入れてくるでもない。
そんな日々が……続いていた。
「一ノ瀬……、聞いてる?」
「え、……ごめん…、何だっけ?」
「………。だからさ、大会…!見に行っていいかって聞いてんだけど。」
「いやいやいや!ダメ、来ないで!レオタードだし、それに…ほら、ウチら弱小部だからかえって恥ずかしい。」
「………。そっかあ、残念。じゃーさ、こっちの試合…、見に来てよ。」
「……え……?」
「見て欲しいじゃん?活躍する姿。」
「…………。」
高梁が試合をする姿は…見てみたい気もするが。
けれど。
いかんせん、それにはどうしてもオマケの方もいらっしゃる訳で……。
「……うん、考えとくね。」
羅衣は…言葉を濁した。
彼女自身が…思うには。
きっと、大会を見に行けば……
間違いなく、渡を探してしまうだろうと……
わかっていたから。
そう……、いつ、どんな場所でも。
羅衣は………
見つけてしまうのだ。
大きな背中、
柔らかいそうな……黒髪。
それから、羅衣に優しく触れる指先に……
部活の後の、汗の匂い。
五感の全てで……
渡蒼生を、意識してしまう。


