ボールを両手に持って。
彼女はそっと…目を閉じる。
イメージするのは……、
羅衣が憧れていた、あのシュート。
渡 蒼生の姿が………
脳裏に浮かんでいた。
目を開けて、真っ直ぐにゴールを見据えると……。
ちょうどゴール脇のギャラリーに……
渡本人の姿を見つける。
「…………。」
冷静に、動揺する素振りもなく……
ボールが放たれる。
綺麗な……軌道であった。
羅衣は、いつか渡がしたみたいに…
シュートを打ったその直後に、脇腹でガッツポーズを決めた。
小気味よい音がして……
ボールは、ゴールへと吸い込まれる。
それとほぼ同時に……試合は再開。
羅衣は、一歩踏み出そうとしたけれど……。
痛む足に、力が入らない。
「………!!羅衣…!」
民子が…そう叫んだ時だった。
民子のすぐ側を…風が掠める。
パチン!!
「…………?!」
中村民子……、絶句。
なぜならば、コートの真ん中には……
女子にまじって、デカイ男が……一人。
か弱き乙女の頬を…叩いていたのだから。
「…………。」
叩かれた羅衣は。
ぽか~んとして…顔を見上げる。
「…少しは学習しろ、馬鹿。そこ…、前にも痛めたとこだろ。」
「………は、はい…?」
にこりとも笑わずに、羅衣を見下ろす……
渡。
「タカハシ!こいつ保健室に連れてって!」
「え、え…。待って、でも大丈夫だし」
「うるさい。いーから…、行け。」
「…………。」
高梁が駆け付けて来ると…、渡はすぐさま踵を返す。
「一ノ瀬、歩ける?」
「ん、なんとか……。」
高梁の肩を借りて、歩こうとしたその時……。
「……。シュート…。上手くなったじゃん。」
一度だけ振り返った渡が、そう言って……
少しだけ、笑った。


