……さて。
早速テニスコートに辿り着いたものの……、
そこは、既に…人だかり。
理由は言うまでもなく……、
渡。
ギャラリーを引き寄せているのであった。
「はあ……。」
応援したくても…、これでは気が滅入りそうだ。
反対側……、クラスメイトの星川がプレーするコート側に、かろうじてひと一人分入れるであろう隙間があった。
羅衣は身を滑らせて、なんとかその場所を…陣取った。
キャーキャーと飛び交う、黄色い声……。
その声を独り占めする男、渡は……
腕につけたリストバンドで額の汗を拭い…、それから、ボールを2回、コートについて……
そのボールを、高く上へと放り投げる。
スパン!!
…と、軽快な音を立てて。
反対側のコートへと叩きつけた。
サービスエース。
「………いい……!」
羅衣、うっかり…妄想世界へと突入!
「一ノ瀬、お前どっちの応援してるんだ?」
隣りにいた男子生徒にそう言われて、焦って…口を覆う。
渡を見まい、としても……
どうしても、見てしまう。
目を……奪われてしまう。
彼女はぶんぶんと首を振って。
「……頑張れ、星川くん!!」
大声立てて応援すると……、
くるり。と星川が羅衣の方へと振り返り、
そのスキに…渡のスマッシュが決まる。
「……あ………。」
やっちまったと思っても、後の祭……。
ギャラリーの視線と、
星川の視線とが……
彼女へと一斉に向けられていた。
「………。…あは、が、頑張れ~……、なんちゃって?」
苦し紛れに小さく呟くと、
ちらりと見た反対側コートの渡と……
バッチリ目が合ってしまった。
「…………!」
すぐさま、視線を逸らして……その場から逃げようとする。
……が。
「一ノ瀬さん!」
何者かに…、ガッチリと腕を掴まられてしまう。
その正体は……、
田之倉絵美。
「……た…田之倉さん……。」


