この日の体育……、
授業の始まりに校庭を走る最中で、彼女はまだ悶々と…思いを巡らせていた。
『変態』
『ヘンタイ』………。
「……。むかつく…っ!!」
渡の言葉が…纏わり付く。
彼女は苛立ちを払拭させる為に、ガンガンスピードを上げて、風を切って…走る。
いよいよ男子の先頭集団に追いついたか、という所で……
すぐ背後から砂を蹴り飛ばす勢いのよい音が…迫ってきた。
ザッザ…
ザッザッ……
「………?!」
振り返るとそこに。
鬼のような形相をした中村民子が……
彼女に向かって手を伸ばしかけていた。
「ひぃぃっ…!た、たみちゃん、どうしたのっ?」
息を荒げながらも、その距離を図る羅衣。
玉のように流れる汗が。
民子のサラサラのロングヘアーを頬に貼付けて…
それはそれはヤマンバのごとく、恐ろしさを増殖させていた。
「羅…衣……。あんた余計なことを~……!」
ぜいぜいと息を切らして、民子はその正体不明の怨念をぶつけてくる。
「待って、なんの話?」
一方の羅衣は体力には自信アリ。
ヒラリとその手をかわし、
声が聞こえるギリギリの所で…
後ろ走りに切り替える。
「…………はぁ…、はぁ……さっき……、噂で…はぁ…聞いた。」
「……ナニ?」
「…アンタはヘンタ…はぁ……、イ。」
……と、ここで。
民子の息は途絶えた。
なぜなら、彼女はその美しい顔を地面へと伏して…。
倒れこんでしまったから。
駆け寄った羅衣の第一声。
「……た、たみちゃんまで変態って言ったぁ~!」
(……おい、そっちかよ。)
意識が遠退く中で、民子はきっと…そう思ったに違いない。


