「ちょっと待ちな、渡蒼生ッ!!」
羅衣は咄嗟に彼のブレザーを掴んで…引き止める。
握る腕には血管が浮き出るほどで……
彼女の力強さを露呈していた。
「……なに。」
渡はそれはそれはうっとおしそうに…、それを払い退ける。
「……だいぶ誤解してるようだから言っておくけど……」
「…………。」
「偶然が重なっただけで、私は痴女じゃないッ!!」
「……………。」
無言の渡。
「…何か…言いなさいよ。」
「…………。…『で』?」
「はあ?」
「アンタが痴女だろうが変態だろうが、俺には…関係ない。」
「また変態って言った!撤回してよ。」
「……。『撤回します。』はい、じゃあどうも。」
背を向けようとする彼を…羅衣は再度捕まえる。
「まだ話は終わってない!」
「ハ?」
「………あの……。」
そう……、本来の目的を忘れてはいけなかったのだ。
けれど……大人しく言葉を待つ渡を目の前に、意表つかれた羅衣はもじもじしてなかなか言葉を切り出せない。
「ワタリー、また告白~?」
いよいよ周囲が騒ぎ始めて……、
ギャラリーが、変態女の恋の末路を見守る形が…既に出来上がっていた。
「………無理。」
羅衣が口を開くよりも先に、渡がぽつりと呟いた。
「……ハ?まだ何も…」
「聞かなくていい。どの道無理だから。…じゃ。」
「………………。」
スタスタと先を歩いていく渡。
びゅううっと生暖かい風が吹き抜けて……
彼の後ろ髪が、それはそれは滑らかに揺れていた。
ーーなに…この男……。もしかして告白してくる女には全部同じその台詞で振ってるの……?
ふつふつと、怒りがこみあげる。
女の子の一世一代の告白を。一体何だと…?!
「待ちなさいよ!」
彼の背中に…呼び掛ける。
すると、渡はやはり素直に…立ち止まる。
「……アンタには…心がない!!」
渡は……前を向いたまま。
それでも羅衣は言葉を続ける。
「…アンタはモテて、告白なんて日常茶飯事のことかもしれないけど…、女の子はみんな必死なんだから!」
「…………。」


