「じゃあ…、どういうつもり?」
本当は、
傷ついていないわけは…、ないのだ。
煌めいて見えていたはずの、この人まで…
平気で、そんなことをやってのけるのだから。
視界が……
一気に淀んでいく。
「……ごめん、…俺ね、好きなんだよね。」
「……は…?」
何に対する…ごめん、なのか。
何が好きだと…言いたいのか?
薄暗い廊下に、ゴロゴロと小さく轟く…雷鳴。
気づけばせき立てるかのように……
激しい雨が、空から落ちてきている。
点いていたライトが、ちかちかと瞬きを繰り返し、羅衣の苛立ちを…助長させた。
彼女は拳を握り、タカハシの顔を…見返した。
「………好きって…、何?」
今の会話の流れで、どうしてその言葉がでるのか?
「………。好きなんだ、一ノ瀬のこと。」
……『好き』?
「だから、他の男を見て欲しく…ない。アイツと一ノ瀬がうまくいって欲しいと思えないのは……そういう理由。…正当だと思うけどな、俺は。」
羅衣は……、その場に、呆然と立ち尽くした。
この男は、何をもって自分を好きだと言うのだろう、と……。
好きという定義は何?
好きになることに、意味はあるのか?
今、まさに羅衣が失ったばかりの感情を……
タカハシはなんのためらいもなく、言ってしまったのだから。
「可笑しい?」
「…………。」
「一ノ瀬は、真っ直ぐすぎる。だから…人を見抜けない。よくいえば純粋で、悪く言えば…鈍感。自分でも気づかないうちに…人を傷つけてる。」
「…………!」
「………何…それ、タカハシくんなんて、私のこと…全然知らないでしょう?どうして、そんなこと…」
「少なくても、渡よりはわかってる。」
「………。なんで?」
「なんで、だと思う?」
「………?」
「教えないよ。」
「………。」
「まだ、教えてやらない。俺の気持ちまで…疑ってるみたいだし。」
「……それは……。」
「気づいてよ。もう少しちゃんと…俺を見て。」


