「…今日…一ノ瀬体育館に来なかったからさ。何かあったのかと思って……。」
「……………。」
「結構待っちゃったりしたんだけど。」
「……ゴメン。だけど、毎日行くとは言ってないよ。」
「ん。そうなんだけどね。わかってるけど……、待ちたくて。」
「……そう。」
「なんか…元気ないね。」
タカハシはひょいっと……
羅衣の顔を覗きこむ。
「……渡と…何かあった?」
「……ない。……なにも…ない。」
「………。ふーん……。」
彼はぽりぽりと頭を掻いて…
少し、考えるようなそぶりをする。
「………。アイツの毒牙にかかっちゃった?」
「…………。」
「厄介…だと思うよ。基本、女を…信用しないし。」
「……………?」
「…ごめん。わかってたのに……正直、傷つけばいいって思った。」
「………は?」
「そしたら。一ノ瀬だって…諦めがつくだろ?少しくらいは…こっち向くかなって。」
「……………。じゃあ…、嘘、だったんだ。」
「……え?」
「自分に自信持てって。納得できる自分になったら…戦いの舞台に上がれるって……」
「………。嘘じゃ…ないよ。少なくとも俺自身は、そう…思ってきた。」
「けど私には……無意味だった。初めっから無理だってわかってるなら、嘘以外の…何でもないじゃない。」
羅衣は、タカハシが羨ましいとさえ……思っていた。
今まで、何も頑張って来なかった彼女に…
自分を偽ってきた彼女に……
残されたものなど何もなくて。
けれど彼は……
努力を重ねて、
ひたむきに頑張って。
実を……結んだ。
努力の結晶。
だからこそ、
羅衣には……眩しく感じたのだ。
「………もう……いい。」
「………?」
「男の人と関わると…ロクなことにならない。」
「…一ノ瀬……?」
「渡も、タカハシくんも……口先ばかりで、そうやって…人の反応を見て楽しんでるんでしょ?」
「……は?そういうつもりじゃ…。」


