「一ノ瀬…」
「今日のことは、……忘れる。忘れてみせる。今までのことも…全部白紙。」
「…………。」
「……嫌なヤツでも、何でもいい。何も知らなかったフリして…また、やり直せれば。」
「………。……無理…あるだろ。」
「…言うと思った。冗談だよ、真に受けないで。」
「…………。」
「賭けの対象にされちゃあたまったもんじゃないもん。…願い下げだよ、こっちが。」
「…………。」
「じゃあね…、ワタリ。結構…楽しかったよ。」
羅衣はそう言って…
渡の側を、通り過ぎる。
それから、くるりと振り返って。
「アンタに一言…、物申す。」
破棄なく…
言葉を絞る。
「………?」
「出会った時、もうちょっと強烈にぶちかませば良かった。」
「…………変態…。」
「ははっ…それで結構!じゃあね、………バイバイ、渡。」
「…………。」
小さな背中を、渡は…呆然として見送る。
その瞳には。
うっすらと…月の光が差し込んでいて。
滲み出てくる何かを…
少しだけ、煌めかせた。


