しばらく……
いいえ、結構長い間しゃがみ込んで読み耽っていると。
次第に周囲が……賑わい始めてきた。
学生達の…登校時間に、通勤時間。
時には彼女を指さし笑う輩もいるけれど、
羅衣は、というと……
そんなのてんでお構いなし。
のめり込むと、周囲が見えなくなるタチであった。
「……犯人は……『マーフィ』ね。」
顔をナナメに傾けて。
逆さまになったアンサーを読もうとした所で……。
「……キャアアッ!!」
すぐ近くで、女性の悲鳴の声が上がった。
「……!!女の敵……ッ!」
彼女はすぐさま反応し、勢いよく立ち上がる。
…が、その目の前に立ち塞がる女子高生が……
思い切り羅衣を睨みつけていた。
「………変態ッ!!アンタ、スカートの中覗いてたでしょ!」
「……は?」
状況が掴めず、ポカンと立ち尽くす羅衣。
その時であった。
彼女を変態呼ばわりした女子高生の肩ごしに……
ある人物の姿が見てとれた。
「……!渡 蒼生……。」
噂通り、4、5人の男を侍らせて。
明らかに彼女…、羅衣を……見ていた。
彼の友人もまた、こちらを見ている。
「…ちょっと!どこ見てるのよ!」
凄い剣幕で怒鳴る女子高生を余所に、羅衣は奴から目を離すまいと……
じっと睨めっこを継続する。
女子高生は苛立ったまま、彼女の視線を追うと……
「…!蒼生くん。」
渡の姿を確認するなり、コロッと声色を変える。
渡はポーカーフェイスのままで。
整ったその唇が……
僅かに動く。
「ヘンタイ」。


