冷たい風を受けながら、海岸通りを走った。
冬のビーチにはさすがに人はいない。
車の往来さえあまりない。
茉雪の思い人、池見先生の家は浜辺に建つ一軒家だった。
バイクを家の前に止め、アプローチを進み、呼び鈴を鳴らす。
ドアを開けると池見先生は驚いた顔をした。
「ぼたんからケーキは秋川くんの家で頼んでって言われたけど、まさか君が届けに来てくれるとは思わなかったよ。今日、友達の結婚パーティーに呼ばれているんじゃなかったの?」
「はい、これが最後の配達です」
僕は池見先生に赤いケーキボックスを差し出した。
ありがとうと受け取る。
「先生は仕事終わったんですか?」
「うん、昨日が終業式だったから、今日は午前中に雑務だけ片付けに行ってきた」
「パーティーが終わったら、2人で過ごすんですよね?茉雪から訊きました。2人が上手くいったこと」
池見先生は照れたように下を向いた。
右手で後頭部の辺りを掻いている。
「では、僕はこれで」
踵を返し、バイクに向かおうとした所で、池見先生に声をかけられた。

