「これからバイトって思うと気が重いなぁ」
「僕も帰ったら、店の配達の手伝いだよ」
僕らは顔を見合わせるとフフと笑い合った。
「明日の夜は結婚パーティーが入ってるんだよね?」
「え?何で知ってるの?私、楓くんに言ったっけ?」
目を丸くして驚くイチゴちゃんが可笑しくて仕方なかった。
何でだろうねと首を傾げた。
秘密はまだ明日まで隠しておくつもりだ。
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イブの夜からクリスマス当日の午前中は目の回る忙しさだった。
兄が友達に借りたという配達用のバイク(宅配ピザ屋が乗ってるやつ)に跨り、店とお客さんの家を行ったり来たり、来店も増え始めてんやわんやの大騒ぎだった。
「楓、これで最後で、上がっていいから」
店のカラーである赤いケーキボックスを受け取ると忙しなく動く兄は厨房へと戻って行った。
メットを被り、バイクを発進させる。
届け先の名前には見覚えがあった。
「イケミレン」伝票にはそう書かれている。

