恋するplants



 学校帰り、駅ビルの中に入っている輸入食品の店で声をかけられた相手は池見先生だった。


 ちょっと気まずい感じがして、言葉の糸口を探していると、


 「メープルシロップ?」


 と池見先生の方が口を開いた。


 「あ、これ・・・パンケーキ作ろうと思って」


 「お兄さんが有名なパティシエなんだっけ?秋川くんもお菓子作るんだ?」


 「たまたまです。池見先生は買い物ですか?」


 うんと頷く池見先生のカゴの中身を見ると、数種類のパスタ、ホールトマト、僕にはよく解らないスパイスなんかが入っていた。


 料理もできる男らしい。


 ますます適わない。


 「池見先生の学校ってこの辺でした?」


 「今日はこの辺の近くで研修会があって、その帰りなんだ」

 
 一緒にレジに向かい、会計を済ますと池見先生が、


 「この後って何かある?」


 と訊ねてきた。


 いいえと首を振ると、


 「俺、今日車じゃないから一杯どう?奢るよ」


 爽やかな笑みを向けてそう言った。


 断る理由は無かった。