「本当だ。楓くんの話が面白くてついつい話し込んじゃった。この辺で私、お暇しますね」
イチゴちゃんはコートを着込むと席を立った。
「暗くなってきたし、駅まで送るよ」
僕はカバンと自宅へと続く扉の奥に放り投げて、彼女の後を追った。
彼女は厨房を覗き込んでいた。
兄においしかったと感想を言いたいのだけれど、肝心の兄の姿が見えないらしい。
僕が伝えておくよと言うと安心したようによろしくねと笑顔を見せた。
店を出るとテラス席に設けられた手製の犬小屋からモンブランが顔を出した。
尻尾を振って勢いよく飛び回ってる。
「イチゴちゃんて犬、大丈夫?」
「うん、この間のワンちゃんだよね?」
「そう、モンブランっていうんだ。店の看板犬。彼のテリトリーはテラス席と庭で、店内に入れちゃいけないんだ。イチゴちゃんが来た時は緊急事態ってことでモンブランと店内に入れちゃったけど、兄には内緒にしててね」
「わかった」
イチゴちゃんは秘密ねと唇に立てた人差し指を押し当てた。
僕は散歩用のリードに付け替え、イチゴちゃんを送りながらモンブラン
の散歩に出ることにした。
「楓くんの書いた脚本読んで見たいな」

