茉雪が冬月先生のことが好きなのは明らかで、畑中と先生の関係と知っていた僕は、さりげなく忠告してみたのだけれど、意固地になっていた茉雪は僕を疎ましく思ってたみたいだ。
真実を知った彼女は落ち込んでいた。
駅に着くと僕は傘を閉じて茉雪に渡した。
「いいよ、秋川、濡れちゃうよ」
「走って帰るからいい。そんなに遠くないし」
「ありがとう、秋川」
「ビニ傘の1本くらいでお礼言わなくてもいいのに」
違うのと彼女は首を横に振った。
「今日、付き合ってくれてありがとう。1人じゃ辛かった。秋川が隣にいてくれたから、冬月先生のこと吹っ切れそう」
彼女はにっこりと笑った。
僕だけに見せた彼女の初めての笑顔だった。
彼女を守りたい、彼女の笑顔を僕だけに見せて欲しい。
そう強く思った瞬間だった。
彼女のために頑張ろうと思った。
猫背で周りを遮断するために長く垂らした前髪を思い切って短くしたら目の前が明るくなった。
新しい髪型を茉雪はいいよと言ってくれた。
クラスでもイタくてキモイけど陽気なキャラクターとして居場所を見つけた。

