市街地を出て海沿いの道路を走る。


 助手席を少し開けて潮の香りを嗅いだ。


 頬に当たる風は少し寒いけど気持ちいい。


 陽がくれて辺りは暗かったので景色を楽しむことが出来なかったけど、波を音は聞こえてくる。


 蓮が音楽をかけた。


 蓮の好きなR&B。


 なかなかいい選曲だ。


 池見蓮は、私立の中学校で非常勤講師をしている。


 今年で2年目になる。


 蓮は25歳、私より5歳年上だ。


 新卒で教師になったのだけど、年齢が合わないのは蓮は大学受験に失敗して、浪人したからだ。


 蓮のお父さんは個人病院を経営している。


 蓮にはお兄さんがいて、お兄さんが医学部に進んだのと同じように蓮も医学部を受験した。


 お父さんと同じように兄も蓮も医者になるのだと小さい頃から言われてきた。


 お兄さんは両親の期待通りに、医者の道へと進んでいる。


 でも、蓮は違った。


 医者になることを望んではいなかった。


 ただ、両親に言われてきたから、何となく、そう思ってただけだ。


 受験に失敗したら、自分の進むべき道がわからなくなった。