今日はもともとわらびと花火大会に行くと嘘をついてあった。
バイト終わりの檜からも謝罪のメールが入っていたがこちらは無視した。
電話がかかってきたら嫌だったので携帯の電源はオフにした。
橋の下で出会って、今、一緒にここにいる彼はケイさんという。
大学2年生の時に休学届けを出し、世界を1周しているのだと教えてくれた。
アジア・ヨーロッパ・アメリカと渡り、残すはオセアニア大陸なのだけど、お金が底をつき、短期のバイトで旅費を稼ぐため、日本に一時帰宅したとのことだった。
無精ひげをそり落とした彼はさっぱりとした顔をしていた。
人懐っこくっ笑う顔は歯並びが良く、歳相応に見えた。
伸びた髪を後ろで束ねている。
髪を切ったらもっといいのにと思ったことを伝えた。
「さっきは酔っているせいにしたけど」
長い指で私の髪を掻き分けながら、彼が呟く。
「きのこちゃんに彼氏がいなかったらよかったのにな」
そう言って少し寂しそうな顔をする。
胸がきゅんとなった。
「キスしてもいい?」
そう言って顔を近づける。
ダメ、そう言えないって解ってるくせに。

