彼の眼差しには引きつけられる何かがあった。
逃げることもできたのに。
檜のキスと比べると荒々しいキスだった。
それでも、耳元で感じる彼の吐息はとろけそうな位甘い。
バイトをしている檜の姿を思った。
今頃、ラーメン屋で汗を掻きながら頑張っているんだろう。
今、私は名前も知らない人とキスをしている。
私は檜を裏切っている。
「やべぇ、今夜、君を放したくないな」
彼はぎゅっと抱きしめると私の頭に顎を乗せ、呟いた。
どうする、今夜?子犬のような純粋な目で私を覗き込む彼の視線に私は微かに頷いた。
★
数時間後、私はラブホテルのベッドの中にいた。
ケイさんの腕に包まれている。
空調が少し強い部屋でケイさんの腕の中は心地よく、暖かかった。
お母さんには雨で服が濡れてしまったので、わらびの家に泊まることにしたとメールした。

