「春紫苑」


 達筆な文字で紙ナプキンにそう書かれた。


 「ハルジオンを漢字にするとこう書くの。春風ナズナの「春」と小山紫苑の「紫苑」。2人の名前が偶然入ったこの花を見つけた時、小山先輩はきっと運命的なものを感じたんだと思うわ」


 「で、春風の下駄箱に毎日入れてたの?ちょっと間違えればストーカーじゃん?」


 「ロマンティストなのよ。自分は学校内で有名なアイドルだし、でも春風さんへの気持ちも抑えられない。だからアピールしてたんじゃないかしら?思いに気付いて欲しくて」


 「でも、それってマルタの想像でしょ?」


 「いえ、事実よ。本人に訊いたのだから」


 無表情で答えるとマルタは再びパフェにぱくついた。


 「もしかして、あの時、階段の踊り場で?」


 マルタは口の端を吊り上げた。


 「あの時は焦ったわ。気付いたら下に春風さん本人がいたから。小山先輩はあなたに気付いてなかったし、あなたは私たちが何を話してたかは聞いてなかったみただけど」


 「何?何?俺の知らない話?ずるいぞ、2人だけ~」


 事情を知らない小石川が子供のように拗ねる。


 「何で?あの時、教えてくれればよかったのに!」


 「だって、小山紫苑には興味がないんでしょ?」


 マルタがパフェスプーンをくわえたまま、じっと私を見つめる。


 「ないけど!!」


 ぶっきらぼうに答えると席を立った。