驚きのあまり声が出て、上履きを放り投げてしまった。


 片方が丁度、登校してきたマルタの前に落ちた。


 「おはよう、春風さん。朝から悲鳴あげて何事?」


 マルタは平然として私の上履きを揃えて私の足元に置いた。


 「あれ、見て、ゴ・・・ゴキブリが・・・」


 私は地面に叩きつけられて動かなくなった黒い物体を指差した。


 マルタは指先に視線を向け、暫らくじっと凝視すると、こともあろうか
素手でその物体を掴みあげた。


 「うそ・・・ありえない」


 素手でゴキブリを掴むなんて!!


 マルタは無表情のままゴキブリを私の前にかざした。


 「作り物ね。驚くくらい良く出来てるわ」


 作り物?本物じゃないの?つんつんと指でつついてみると確かにそれはゴム製の作り物だった。


 「高校生にもなってこんなガキくさい悪戯する奴がいるなんて驚きだわ」


 マルタはそういうとゴム製のゴキブリをブレーザーのポケットに入れ、さっさと行ってしまった。


 私は暫らくの間、呆然とその場に立ち尽くしていた。


 エスカレートしていく嫌がらせに泣きたくなった。