「うるさい。さっさと行けば?」


 片手でシッシッとマルタを追い払うと、素直じゃないわねとマルタは呆れた口調で返し、教室を出て行った。



 草香よもぎ。


 今となっては懐かしい名前だ。


 中学の頃に一目ぼれして、必死で追いかけたけど、叶わなかった恋。


 初めての失恋。


 本当、よもぎに失恋した頃は辛かった。


 今まではいいなって思ってた男子は絶対落としてた私だったのに、一筋縄ではいかなかったな。


 そこが魅力的だったのだけど・・・。


 彼とはバイト先が一緒なので、同じシフトに入った時や、バイト仲間で集まる時にちょっと話す程度だ。


 振られたと振った関係できまづいのか必要以上のことは話さない。


 もともと口数少ない方ではあるんだけど。


 そんなよもぎとの距離感もいつの間にか慣れてしまった。


 失恋した当初はすごく辛くて、バイトも辞めようって思ってたのに。


 多分、それは芹がいたからだ。


 芹が凍っていた私の心を溶かしてくれて、温かいものを注いでくれたんだ。


 新聞演劇部ってことは芹もいるんだろうな・・・仲間と楽しく中庭でお弁当を食べるマルタ、羨ましい・・・って何、あいつを羨ましがってるんだ、私。


 やばい、相当疲れてるかも・・・ぶるぶると頭を振って、つまらない考えを振り落とした。