ひたすら喘ぐだけで、恵美は僕にとって有意義な言葉を吐かない。 ただの淫乱な女だ。

だからといって別に淫乱が悪い訳ではない。 彼女が淫乱で、頭が悪い事が嫌なのだ。



今日、一週間ぶりに彼女が家に来た。 玄関に入るや否や、仕事なんかよりも私に構ってと言うかのように、僕の唇にむしゃぶりついてきた。 それに適当に応じながら、僕は明日のテレビ番組の事を考えていた。
……たしか、深夜にレクター博士の映画があるはずだな。


それを見ようかなと考えた。 キスを終えた恵美は、僕の前に跪いた。


さすがにそれには驚いた。 欲求不満かこいつは。 ただ一週間会わなかっただけなのに。


「やめて」


僕のズボンのチャックを下ろそうとしていた恵美の頭を乱暴に掴んで、向こうに押しやった。 彼女は玄関に倒れ、尻をついて僕を見上げてきた。


「帰って」

「…………」

「僕はアンタを好きじゃない。 ずっと前から」

「…………」


何も答えなかった。 変わりに涙を流した。
彼女は目を伏せ、ゆっくりとまばたきをしながらポロポロと雫を流した。 何とも、涙が出るのが早い。


「さすが。 ――――役者だね」

「……し、」

「よせ。 名前を呼ぶな」


僕は何もしなかった。 しようとも思わなかった。 ただとにかく、彼女に目の前から消えて欲しかった。

玄関のドアを開けて、「帰れ」とだけ言った。 恵美が何か言おうと口を開くが、相応しい言葉が出ないらしい。


「言葉が無いのか? ――――そっか、何時も言うべき言葉が用意されてるもんね」


我ながら酷い物言いだと思う。 でも、これでいいとも思うのだ。

僕を嫌えばいい。 二度と思い出したくなくなる程。


「早く帰れ。 二度と来るな」


彼女の顔がくしゃくしゃになった。 そして泣きながら、僕の脇をすり抜けてドアから出て行った。

そのドアを閉め、鍵を閉めてチェーンを掛けると、廊下の右側にある部屋に入った。



その部屋にはベッドと仕事机があり、窓際にギターを置いている。 本棚もあるが、あまり本は無い。

ベッドに寝そべって目を閉じた。
眠れそうにはないが、何時も以上に落ち着くことが出来た。 胸の中にある、しこりが一つ無くなったからだろう。