「解ってるよ。待っててくれて、有り難う。……でも俺は、さっきも言ったけど、海崎を一目 見たら、別の所へ引っ越すつもりだったんだ。」
「…………。」
私が黙っていると、翔織は哀しそうに笑った。
「だから……すまん。」
そう言って、くるりと背を向け、駅の改札口へ向かう。
その背中に、私は声を掛けた。
「そうやって また、独りで抱え込んで、生きてくの?」
私の言葉に、翔織の足が ぴたりと止まった。
皆は何も言わずに、成り行きを見守ってくれている。
「前は わざと冷たく振る舞って、周りを遠ざけて。今は わざと明るく振る舞って、周りに何も言わせずに、自分から離れるの?」
翔織は背を向けたまま、答える。
「昔は祐貴さんが、俺の世界を破壊するのが怖かった。今は そんな不安も無くなって……きっと幸せに なれるんだろうけど……やっぱり、人生に不意討ちを喰らうのが怖いんだ。」
「翔織。」
私が翔織の背に触れると、彼は ゆっくりと振り返った。
その紅い瞳に在るのは、出会った時と同じ。
深い、底無しの闇。
「逃げてるだけだよ。」
「それも解ってる。」
翔織の声は苦しそう。


