「お待たせ!」

待ち合わせの駅には、既に皆 揃っていた。

「あれ?渡辺君も居るの?」

見れば葵の隣には、懐かしい理知的な顔が在った。

「折角 久し振りに集まるのに、呼んでくれないなんて酷いって抗議したんだ。何も言わずに参加しちゃって御免ね。」

そう謝る渡辺君に、私は ううんと笑って首を振った。

「葵と渡辺君、もう結婚するんだもんね。一緒に居たいのは当然だよ。」

そう言って、私は ぎりぎりと締め付けるような哀しみを感じた。

あの病院を見てしまった所為だろうか。

何だか無性に、翔織に会いたくなってしまった。

高校を卒業して、大学を卒業して、近所のスーパーで働き始めて。

何人か、男の人と お付き合いを したけれど、キスを して思い出すのは、哀しい記憶。

初めてのキス。
1度切りのキス。

どうしても、翔織の事が忘れられなくて、直ぐに別れてしまっていた。

もう翔織とは、連絡すら取れない。

メールを しても、エラーメッセージは返って来ないから、届いている筈。

電話を しても、「この番号は現在 使われておりません」と言ったアナウンスは流れないから、留守電に残した伝言は、届いている筈。

それでも、メールの返信が返って来る事も、彼が電話に出る事も無かった。