あの日。

祐貴さんに切られた翔織の傷は、とても重いものだった。

左の鎖骨から右の腰迄、真っ直ぐに伸ばされた傷は、その殆どは浅かったものの、突き立てられるように当てられた鎖骨の部分は、鋭く筋肉を抉り、多量の出血が在った。

救急車で この病院に運ばれた翔織は、とても危険な状態だった。

もう少し処置が遅れていたら。
慶が止血を試みていなかったら。

翔織は もう、この世には居なかったかも知れない。

長い間 昏睡状態だった翔織は、私と交わした、「死なない」と言う約束を守ろうと、死の淵から這い上がってくれた。

それでも、私達は、翔織に会えなかった。

彼が、面会を拒否したから。

誰も病室に入れず、何度も警察とのみ話を して。

退院して直ぐ、翔織は この町を去った。

私に何も言わず。

また、そうやって独りで抱え込んで。

そう言って泣いた私を、皆は黙って抱き締めてくれた。

救急車に運ばれる前に交わした あの言葉が、最後の会話と なったのだ。