「じゃあ椎名、また明日な!」

「じゃあな!」

10年前。

いつものように、放課後、曽根倉達とグランドでサッカーを して、俺は帰宅した。

「只今ぁ!」

いつものように家に入って、
いつものように台所へ行って。

いつものように母親が夕食を作っていると、思っていたのに。

ぴしゃっ。

何か足元で、液体のような物が跳ねて、俺は廊下を見つめた。

「……っ!!」

その光景に息を飲む。

玄関から廊下、台所。

その道筋に、赤い液体が流れ。

台所の、僅かに開いたドアから、母親の白く、細い腕が見えた。

足が竦んで動かない。

それでも俺は、自分を奮い立たせて台所のドアを開いた。

「っ!!!!」

悲鳴すら、上げる事が出来なかった。

無惨な両親の死体を、俺は どんなだったか思い出せない。

でも、ぞっとする程 綺麗な赤の中で、両親の白い肌が美しく光っていた事だけは、鮮明に憶えている――。