「桜さん、料理 上手だね。」

夕食の飯盒炊爨で、私は初めて、同じ班の渡辺 優(わたなべ すぐる)君と話を した。

渡辺君は、短い黒髪に同じ色の瞳、眼鏡を掛けた理知的な少年だ。

頭 良いらしい。

翔織達と同じ部屋で、飯盒炊爨の時は、私達と くっ付いて同じ班。

「有り難う。」

私が素直に お礼を言うと、彼は翔織を ちらっと見た。

「彼氏も、料理 出来るんだね。」

彼は料理人かと突っ込みたくなるようなペースで、玉葱を切っている。

「うん。」

「全く。お似合いカップルで残念だなぁ。そうじゃなきゃ、俺が口説こうと思ってたのに。」

えっ。

どきっとして渡辺君を見上げると、彼は笑顔で首を振った。

「別に どうこう する気は無いよ。……桜さんが いじめられてる時、助けようと思ったけど、あんな格好良い事されちゃあね……。」

かなわないでしょ、と彼は笑った。

その時。

「こらぁっ優!!口説くな!!」

葵ちゃんが、フライパンで渡辺君の頭を、すこーんと叩いた。

「いてっ!!」

「海崎は彼氏 居るんだから!!」

「知ってるよ そんな事!今その彼氏の話を してただけだ!!」

涙目で抗議する渡辺君を見て、私は笑ってしまった。