翼は陽子が傍にいることも忘れて溜め息を吐いた。
「どうしたの翼」
その言葉に驚いて、視線を遺影から外すと、陽子が翼を見つめていた。
「ちょっと気になることがあって」
そう言いながらも躊躇った。
家族の……
勝の秘密を打ち明けても良いのだろうかと思いながら。
「実は……」
翼はやっと、病室で会った恵のことと、祖父が薫に言ったことを陽子に話した。
「つまり、おじ様が香さんを探していて、薫さんを香さんと呼んだってこと?」
翼はうなづいた。
「それじゃ、薫さんが香さんじゃないの」
「でも母さんの名前は間違いなく薫だよ」
翼はもう一度遺影を見つめた。
「お祖父ちゃんはあの時何かを見つけたんだ。その何かが何なのかを知りたい。僕の秘密につながるかも知れない」
「秘密って?」
「母は翔ばかり可愛いがってた。何故僕が愛されなかったのかが分かるかも知れない」
翼は目を閉じ、辛かった日々を思い描いていた。
「僕の頭にハゲがあるの知ってる?」
突然翼が尋ねる。
陽子は首を振った。
「あれは確か八年前だったな」
翼は翔が母に溺愛されていると感じた日の出来事を話し始めた。
薫が翼と翔を連れてこの家に遊びに来たときのことだった。
いきなり近所のおじさんが現れ、翼のお尻を叩き始めた。
『孫が何かしましたか?』
勝が慌てて止めに入ってくれた。
でも叩くのをやめてくれなかった。
『家の柿を盗みよった。それだけじゃない。硬いのをもいで投げつけてきた』
『僕じゃない!お願い信じてよ!』
翼は必至に訴えた。
でもおじさんは聞いてくれなかった。
『年寄りだと言って馬鹿にするな!ワシは顔を見ているだ。こいつに違いねえ!』
翼の頭をポカリとやって、おじさんは帰って行った。
翔が隠れて様子を伺っている。
勝はピンときた。
『翔!やったのはお前か!?』
『俺じゃあねえ。きっとこいつだよ。じっちゃんは知らないと思うけど、こいつは陰で悪さするんだよ』
翔は翼を指差しながら不適な笑みを浮かべた。
『お父さん何てこと言うの。翔がやるわけないじゃないの。翼よ。翼に決まってる! 翼、翔に謝りなさい!』
薫の手が翼の襟を掴む。
翼は抵抗する。
その瞬間、薫の手が外れ、バランスを崩した翼は後頭部を石にぶつけていた。
「どうしたの翼」
その言葉に驚いて、視線を遺影から外すと、陽子が翼を見つめていた。
「ちょっと気になることがあって」
そう言いながらも躊躇った。
家族の……
勝の秘密を打ち明けても良いのだろうかと思いながら。
「実は……」
翼はやっと、病室で会った恵のことと、祖父が薫に言ったことを陽子に話した。
「つまり、おじ様が香さんを探していて、薫さんを香さんと呼んだってこと?」
翼はうなづいた。
「それじゃ、薫さんが香さんじゃないの」
「でも母さんの名前は間違いなく薫だよ」
翼はもう一度遺影を見つめた。
「お祖父ちゃんはあの時何かを見つけたんだ。その何かが何なのかを知りたい。僕の秘密につながるかも知れない」
「秘密って?」
「母は翔ばかり可愛いがってた。何故僕が愛されなかったのかが分かるかも知れない」
翼は目を閉じ、辛かった日々を思い描いていた。
「僕の頭にハゲがあるの知ってる?」
突然翼が尋ねる。
陽子は首を振った。
「あれは確か八年前だったな」
翼は翔が母に溺愛されていると感じた日の出来事を話し始めた。
薫が翼と翔を連れてこの家に遊びに来たときのことだった。
いきなり近所のおじさんが現れ、翼のお尻を叩き始めた。
『孫が何かしましたか?』
勝が慌てて止めに入ってくれた。
でも叩くのをやめてくれなかった。
『家の柿を盗みよった。それだけじゃない。硬いのをもいで投げつけてきた』
『僕じゃない!お願い信じてよ!』
翼は必至に訴えた。
でもおじさんは聞いてくれなかった。
『年寄りだと言って馬鹿にするな!ワシは顔を見ているだ。こいつに違いねえ!』
翼の頭をポカリとやって、おじさんは帰って行った。
翔が隠れて様子を伺っている。
勝はピンときた。
『翔!やったのはお前か!?』
『俺じゃあねえ。きっとこいつだよ。じっちゃんは知らないと思うけど、こいつは陰で悪さするんだよ』
翔は翼を指差しながら不適な笑みを浮かべた。
『お父さん何てこと言うの。翔がやるわけないじゃないの。翼よ。翼に決まってる! 翼、翔に謝りなさい!』
薫の手が翼の襟を掴む。
翼は抵抗する。
その瞬間、薫の手が外れ、バランスを崩した翼は後頭部を石にぶつけていた。


