「これから中川で犯人捜しだ」
秩父駅に向かうバスを待ちながら翔が言う。


「そう言うことは、私達が犯人だと思っている?」

翔は頷いた。




 バスの車内で陽子は、翔の中の翼を見つめた。
でもそれはたてまえ。
翔が何をするか判らなかったからだ。


翔は、そんな陽子を無視して摩耶の花嫁姿の写真を見ていた。


(やはり、翼……じゃないのね)

陽子は悲しくて……
寂しくて……
それでも翔の中の翼を見続けようと決めていた。




 翔の住む家からは御花畑駅の方が近かった。
だから翼は何時も其処から乗車していたのだ。


でもバスは其処にはもう通ってない。

勝の話では、昔は坂氷バス停の先を市役所方面に直進していたそうだ。

それはまだ坂氷から市役所へ向かう道が、一方通行ではなかった時だと言っていた。


お花畑駅横を通り、メインストリート・秩父神社を抜けて秩父駅までコの字を描くように行っていたと言うことだった。

でも今は交通事情等もあり通らなくなったらしい。


つい最近、市役所の北側の通りが相互通行にはなったようだけど……




 坂氷バス停先を右斜めに曲がる。

そのずっと先に踏み切りがある。

其処を渡とその先の信号を右に折れる。

何時か翼と行った秩父神社横を通り、バスは秩父駅に向かった。


駅前はロータリーになっていて、真ん中にバス停があった。


《降りる》ボタンを翔が押しす。

バスは静かに秩父駅前の停留所に到着した。


ドアが開き、翔は陽子の後に付いた。

逃げられなくするためらしかった。




 秩父駅でバスを降りた翔は、その足で自動券売機に向かった。
そんな時でも陽子と離れない。

陽子は既に諦めていた。
翔と、翔の中で眠る筈の翼の魂と向かい合う。
そのために……。
必死に恐怖に打ち勝とうとしていた。




 秩父駅の周りでは何時か翼と乗ったSLが到着するのを待ち構えて、カメラを用意している人もいた。


その到着の大分前に出る電車。
二人はそれに乗った。




 「あれもそうか?」
西武秩父駅を眺めていた翔が言った。
駅を過ぎた辺りに此方を見ていた人がいた。

陽子は頷いた。