でも、失敗なんて許されない。
それに僕が失敗してしまったら、私でいられなくなる。
信悟や皆に嘘をついていることは最低なことだ。
けど、僕は嘘を重ねていかなければならない。
「セノ?」
「うん、僕で良ければまた聞かせて?」
嬉しそうに頷いてくれた信悟
僕はいつか、君のその笑顔を奪ってしまうのだろう…
「5レーン天野天理」
「「「キャ—————‼‼」」」
放送で聞こえた天理の名前。
5レーンに目をやると観客に手を振っている天理がいた。
その姿をじっと見ていると僕の視線に気づいたのか、僕の方に向き直り投げキッスをしてきた。
その余裕はどこから出てくるものなのだろうか…
「位置について」
ピストルを持った係員の声と同時に天理は前を向いた。
体育祭なんて遊びのようなものだとって天理は思っていると勝手に決めつけていた。
でも、隠された真剣そのものの瞳はどこか寂しげだった。
「よーい…ドンッッ‼」
パァァァァンー
ピストルの音と同時に走って行った天理は凄く速かった。


