階段を急いで駆け降り、下駄箱を横切りグラウンドに出た。

ここを突っ切ればそこには―――…


「龍太~、いきなり学校辞めちゃって寂しかったー」


「龍太先輩、また学校に戻ってくるんですか?」

「はい、チョコレート!龍太のために用意したのよ」


「……」


すっかり忘れていたけれど


ここにいた頃の龍太は、かなりモテていたんだった。


たくさんの女の子に囲まれ、困惑の表情を見せながらも、どこか優雅に微笑んでいる。


そんな龍太を少し離れた場所から見ていたら


私に気づいた龍太がその女の子達の間をすり抜けて、私に駆け寄ってくる。


私だけに向けてくれる最高の笑顔で――…。


「琴葉」

私の名前を呼ぶ。

私だけの名前を――…。


私だけの龍太。

「龍太」

周囲から洩れ聞こえてくる悲鳴やどよめき。


だけど、今の私達には関係ない。


「…電話…出ろよな」

私の鼻に人差し指をそっと擦り寄せて、フッと笑う。

「…だっ…て…」

視界が滲み、鼻の奥がツンとし始める。

「まったく…」

呆れながらも、頬に優しく手を添えられた。