『…泣くな…よ、頼むから…泣くな…』

苦しそうに呟く声。

どうして…?前みたいにもっと強く言ってよ。


泣くな、だなんて…

そんな哀しそうな声で

言わないでよ。

龍太らしくないよ!


「…龍太…ヒック…ふ…っ…龍…太」

今―――どこにいるの?


私の想いは言葉にならなくて…


電話の向こうにいる龍太の表情は見えなくて…


龍太の微かな息づかいだけが響く。




『琴葉……お前…早く…帰れよな…今夜は…冷えるから』

「え?」



――――今、私がいる場所。


学校から駅に向かう道。

いつも金曜日に龍太と帰った道。

時間は5時を…少し過ぎたところ。

だけど、今日は金曜日じゃない。

たまたま数学の課題のノートを提出し忘れて…遅くなっただけ――


いつもなら…もうとっくに家にいる時間だ…。