「―――本当に忘れたいの?」

「……」

だって―――…私には航平が…

航平のためにも、龍太のことはもう忘れなきゃ…

「……っ…もう、か、彼氏がいるんです。だから、私、は…」

「だから、なに」

彼女からの冷めた言葉が響く。

「そ、それに…私は龍太から…別れようって…言われたし…」

そう―――…最後に会った日、龍太ははっきりと“別れよう”って言った。



「だから?龍太のことはもういいってこと?」

鋭い視線が突き刺さる――…

「――…っ」



しばらく重い沈黙が続いた。

けれどいきなり彼女が立ち上がり

「帰るわ。これ以上なにを話しても無駄なようだし」

サッと伝票を手に持つとくるりと向きを変え出入り口に向かう。

向かいかけて、足を――…一瞬止めた。


「―――悔しいけど…私はなにも言われてないのよ。別れの言葉さえなかったわ。
あなたは……あなたが…羨ましい…」

そう吐き捨てるように言って出ていった。



麗美が残していった名刺――…

言葉――…



突然の訪問者は嵐のようにやってきて、私の心を乱すだけ乱して帰っていった。


しばらくの間、その名刺から目が離せずにいたけれど

気がついたら携帯を握りしめていた―――…