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『……ねえ』
「…」
『ねえ、聞いてる?』
「……」
『何か言わないとキスするけど』
「うるっさいなあ」
『あ、やっと喋った』
そう言って頬杖をつきながら私に
微笑みかける夏。
どんな仕草をすれば女の子が騒ぐのか
わかっているそのやり方に少しばかり
腹が立つ。
「…用件はなに」
相も変わらず彼は私の前に座っていて、
その席は他人の席だということはもう
既にどうでもいい事となっている。
夏の中で、だけれど。
まあ、その席の主は夏が座ることを
快く…というか頬を真っ赤に染めて
「ずっと座っててもいいからね!」
なんて的外れなことを言っていたけど。
『…、る……悠』
「あ、」
『ほら、また聞いてない』
「ごめん。夏の存在を忘れてた」
『は?』
入学式から1ヶ月と少し経った今では
夏の扱いにも慣れ——…。
『キスする』
「嘘だよ、ごめん」
……ては、いなかった。
こいつ、いま本気でキスする気だった。
人が沢山いる昼休みの、この教室で。
怖すぎる。その思考と行動力が。

