何か言いた気なのに、迂闊な事を言いたくない。

そんな風に見える。


私の前では、言えない事?



「……せんせ」

「……ああ。行こうか」



そう言った先生だったけど、後ろの泉野先生に気をとられてるのは、私にでさえ分かったんだ。




多分、この二人は私が知らない所で、何かを隠してる。


そんな気がして仕方がない。


家の前に車が着いても、降りようとしない私を不思議に思ったのか、先生が揺さぶった。



ぼぅっとして、ただ目の前に立っている掲示板を無意識に見つめていた。



「……着いたけど。また、別れたくない?」



うん。別れたくないのもあるけど。



聞きたい事も、ある……かな?


でもそれは言い出せないし、聞ける訳ない。




だから、掲示板に貼ってあるポスターを見ながら呟いた。



「花火大会、だって。8月の15日」

「……行こうか」

「一緒に見たいね、花火」

「浴衣が見たい。華音の」

「じゃ、絶対一緒に行こ?浴衣買うから」

「おう」



楽しい筈のその日は、何故か、わだかまりを残したまま、帰宅した。

さよならのキスは、今日は、なかった……。