新卒の俺、櫻蒼季(さくら あき)が私立のS高校の数学科担当教師に決まった時は、少なからずホッとした。

この学校には高校時代からの先輩の安藤さんや濱口さんが既に赴任していたから、少なくとも、まるきり知らない奴ばかりではない 。

むしろ腐れ縁の安藤さん達と一緒の職場で良かったと思っている。


人並みより若干恵まれた容姿のおかげで、高校から大学時代に付き合ったオンナも何人も居はしたが、ソイツらに本気になってのめり込むほど入れ込んだ事はない。


俺にとっては安藤さん達を追いかけて一緒の道を歩くのがいつの間にか当たり前になっていて、その道の邪魔になるなら、彼女なんて面倒なもんを作る気にもならない。


実際「櫻君は私と安藤さん達、どっちが大事なの!?」なんぞとヒスを起こしたオンナは一週間で捨てた。



大事な先輩達とどうでもいいオンナとじゃ優先順位が違ぇよ。


安藤さんは体育、濱口さんは経済、そして俺は数学担当。



その高校で、安藤さん達の同僚だと最初に紹介されたのが、現国担当の宮藤春臣サンだった。



この宮藤という人物がなかなかの曲者で、真面目に授業をしている姿など見たことが無いという噂だ。

しかも見かけが良いせいか言い寄られる事数知れず、しかも女生徒のみならず女教師まで手を出す手癖の悪さ。


何時だったか、空き教室から猫が鳴く声がしたようなので行ってみたら、宮藤サンと女生徒の一人がコトの真っ最中だった。


呆然として、傍若無人さを目の当たりにしたときは冗談だろうと流石にたまげた。




俺が『華音』に出会ったのも、ちょうどその頃だった。