「なんか急にお前に会いたくなった」

「何それ。……上がる?」

ん、と頷いて、靴を揃えて中にあげて貰った。

「今日は凱はいねーの?」

とキッチンで飲み物を用意する華音に問うと、「店終わってから繁華街で遊んでるんじゃないのかな?」との返事。

あのオニーサンは気楽でいいよな。気儘に自営業やってるし。



ふと居間のテーブルを見ると、今まで華音がやっていたのか、歴史の教科書とノートが広げられている。

コイツ、意外にも社会と現国の成績は全国でもトップクラスなんだよな。

理数系はまるで出鱈目だけど。なんでこんなに科目によって波があるんだよ。ある意味器用な奴だよな。


ノートやプリントを一つ一つ丁寧に見ていくと、まだ記入されていない一枚のプリントが目に入った。



【進路調査票】



……そう言えば、コイツ将来どうするんだ?もう高3の夏だろ?

いい加減将来を決めないといけない時期なのに、まさかまだ、決まっていないのか。

今までにも何回か「お前将来どうすんの?」とは聞いてきた。

だが、華音は口を濁すだけで、自分の将来の事を語ろうとはしない。



さすがに心配になってくる。



「工芸茶、淹れたよ。見てみて、綺麗」

えへ、と笑う華音は確かに可愛いけど。俺が買ってやった茶葉も、確かに珍しくて綺麗だけど!

「華音。お前、進学でもない、就職でもない、将来どうするんだ?」

今回だけは逃げの回答は赦さない。


そんな声音で、華音の逃げ道を塞いだ。


声に不機嫌さが混じったのは、華音に対して多少の後ろめたさがあったからだった―――。